ディートリッヒ 中原中也くれないの牡丹咲く 

2019年05月01日

深夜の思い 中原中也

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深夜の思い        中原中也
 

これは泡立つカルシウムの
乾きゆく
急速な――頑(がん)ぜない女の児の泣声(なきごえ)だ、
鞄屋(かばんや)の女房の夕(ゆうべ)の鼻汁だ。

林の黄昏は
擦(かす)れた母親。
虫の飛交(とびか)う梢(こずえ)のあたり、
舐子(おしゃぶり)のお道化(どけ)た踊り。

波うつ毛の猟犬見えなく、
猟師は猫背を向(むこ)うに運ぶ。
森を控えた草地が
坂になる!

黒き浜辺にマルガレエテが歩み寄(よ)する
ヴェールを風に千々(ちぢ)にされながら。
彼女の肉(しし)は跳び込まねばならぬ、
厳(いか)しき神の父なる海に!

崖の上の彼女の上に
精霊が怪(あや)しげなる条(すじ)を描く。
彼女の思い出は悲しい書斎の取片附(とりかたづ)け
彼女は直(じ)きに死なねばならぬ。


1連〜3連、なにもかもが寝静まった深夜、一人思索にふける中也は、次々と幻想に落ち込んでゆく。後半4〜5連は最後に見た幻想、ゲーテの「ファウスト」のマルガレエテが黒き浜辺に歩み寄る。マルガレエテとはファウストの子供を宿したグレートヒェンの愛称。

グレートヒェンは嬰児殺しの罪で(ファウストとの間に出来た子供)死刑に処せられた女性。いちど地獄に落ちたが悔悟によって聖母マリアの許しを得て天上に登った。「彼女の思い出は悲しい書斎の取片附」とあるが、彼女は長谷川泰子。

マルガレエテは、「グレートヒェン」=泰子を引き出すため。黒き浜辺に歩み寄る泰子、被ったヴェールが風に吹き飛ばされそうな崖に立ち、神の裁きを受けさせるために海に跳び込ばねばならぬ。

悲しみの中で書斎を片付け、泰子の引っ越しを手伝ったのが最後の思い出。中也はその泰子に、「彼女は直(じ)きに死なねばならぬ」と厳しく断じている。泰子が友人小林秀雄の下に去ったことで、それほどまでに深い哀しみと、悔しさに満ちていたのである。

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 4月17日撮影 姫路温室植物園あじさい展


きょうの音楽

オッヘンバッハ   「ホフマンの舟歌」

ATTIKA Musica Poetica Orchestraは1993年ギリシャでマンドリン音楽を国際的に広げるために結成された。ルネッサンスからモダンまで音楽を解釈する唯一のギリシャのマンドリンとギターのオーケストラ。心地よいマンドリンとギターのアンサンブルが聞こえて来る。

 Barcarolle, J.Offenbach, ATTIKA "Musica Poetica" official version



naturococo at 00:33│Comments(2)

この記事へのコメント

1. Posted by じゅんちゃん   2019年05月06日 21:10
haruka1さん、こんばんは。

紫陽花のお写真の素晴らしいこと!

詩人の心象は実にユニークですね。
でも、とてもありふれた愛憎も宿しているのですよね。

中也への興味は尽きません。

マンドリン演奏、久々に聞きました。心地よいですね。
2. Posted by haruka1   2019年05月06日 23:02
じゅんちゃんさん、こんばんは。

なんだかんだと言いながら歴史に残る10連休は終わりました。これがもしも昔であれば半分は黙って一人会社に出て気になっていた仕事をやっていたと思うのです。そんな時代でした。

ここのところ中也ばっかりで、済みません。泰子の潔癖症がひどく日常生活が難しかったので二人は円満に別れたと思っていたのですが、いざ、別れてしまうと去って行った寂しさとジェラシーが湧いて来るのですね。愛憎問題はそう簡単ではなさそう。

舟歌のマンドリン、聞いたとたん、心地良かったので気に入り早速UPしました。入社2年間ほどマンドリンクラブに入っていたのですが、3年目ぐらいからはそのような余裕はなく、以降高度成長期で仕事と酒ばっかりでした。このアジサイは温室で育てられた鉢植えばかりです。

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