ヴィターリ のシャコンヌ 五嶋みどりの「サパテアート」

2019年06月24日

身を知る雨

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伊勢物語 第百七段「涙河」より 身を知る雨

さて、今年はまだ本格的な梅雨の雨は降らず、6月も終りを迎えている。古今集在原業平の人気の歌に、自分の孝、不孝を知る「身を知る雨」がある。この歌に辿り着くまでが結構おもしろく、以下、伊勢物語「涙河」の順を辿ってみた。

在原業平のところに若い女がいた。その女に藤原敏行が好意を寄せ、歌を書いて手紙などを送っていた。

          つれづれの ながめにまさる涙河
                                 袖のみぬれて 逢ふよしもなし       藤原敏行 (古今集)

退屈ですることもなく長雨を見ながら、あなたを思って物思いにふけっていると、流した涙が川のようになってしまったのです。涙の川は袖が濡れるばかりで、あなたに会うことが出来ません。会うには、どうすればいいのでしょうか。

この手紙を受け取った女はまだ若く、手紙も書けず言葉の使い方も知らず、まして歌の手紙などは読むことすら十分でなかった。そこで女の主人である業平が下書きを書き、女に書かせて敏行の元に送らせた。

           あさみこそ 袖はひづらめ涙河
                                     身さへながると聞かば頼まむ    在原業平 (古今集)

浅い川のせいで袖ばかりが濡れる涙河でしょう。あなたの身が流される程に川が深いと聞いたならば、あなたのことをもっと頼りにするでしょうに、と、業平は揶揄するような歌を詠んでやった。袖が濡れるだけの恋なんて、あなたの恋は浅いのですと言われた敏行。

そう言うことかと、痛く感心して文を巻物にして文箱に保存した。敏行がその女と結ばれた後のことである。「今にも雨が降って来そうな空を見て、私の心は憂鬱です。もし私の身に幸いがあり、あなたが私のことを心底想ってくださっているようならば、この雨はきっと降らずに、

あなたに逢いに行けると思います」と言って敏行が女のもとに手紙を寄越した。そこで業平は、女に代わって次の歌を詠み、男(敏行)の元に届けさせた。

            かずかずに 思ひ思はず 問ひがたみ 
            身を知る雨は 降りぞまされる      在原業平 (古今集)

あなたが私のことを色々と思っているのかどうか、あれこれと聞けないのです。私の幸、不幸を知るのは私に降り注ぐ雨(身を知る雨)です。その雨がいまの私の涙としてより厳しく降り注いでいます。

この返事を受け取った敏行、雨具もつけず女のところへすっ飛んだ。以前に女からあなた様の恋は浅いと言われた敏行、こんどの女の要求は雨にも負けない恋心だと言う。敏行、これはさあ大変と、慌てて女の元に駆けつけた。

在原業平、女性の気持ちをよく心得ている。いまでは信じ難いような三人の関係。どうやら歌の訓練を兼ねた恋の仲立ちである。敏行と業平、この二人の妻は姉妹関係にある。

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きょうの音楽

  バッハ シャコンヌ

  バッハ無伴奏ヴァイオリンパルティータ第2番より「シャコンヌ」抜粋
  ヴァイオリン    ヤッシャ・ハイフェッツ 
Bach Chaconne from Partita No. 2 in D minor
Jascha Heifetz, violin Paris, ORTF Studio 102, September 16, 1970
Label. RCA



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naturococo at 12:56│Comments(2)

この記事へのコメント

1. Posted by じゅんちゃん   2019年06月28日 10:24
haruka1さん、おはようございます。

紫陽花のお写真のすばらしいこと!

昨日やっと雨が降って、我が家の三種類の紫陽花も健気に咲いてくれていますが、haruka1さんのお写真には遠く及びません。(^^♪

業平の「恋の仲立ち」、面白いですね。業平は、高貴で美男という刷り込みが強くて、こんなふうに、自らの歌を通して人の恋を助けるというのはちょっと意外なイメージでした。

「シャコンヌ」ですね。前回の「ヴィターリのシャコンヌ」のとき、10歳にならないうちに「シャコンヌ」を弾き切ったという五嶋みどりさんのことを思い出して、みどりさんの演奏をすぐに聴いたのでした。

2. Posted by haruka1   2019年06月28日 16:14
じゅんちゃんさん、こんにちは。

待望の雨がよく降りました。台風も雨を降らして去り、いまは止んで蒸し暑さが残っています。紫陽花が蘇ったころだと思います。久しぶりにひょうごフラワーセンターへ出かけました。

恋の仲立ち、最後の歌を取り上げたのですが、解釈の難しさに困り、逆に遡ると伊勢物語に到着(よくある例ですが)です。初めから伊勢物語から入ればいいのに。

先程まで、you tubeで五嶋みどりのシャコンヌを聞いていました。バロックはハイフェッツから入門でしたので、懐かしくてそれを入れました。抜けきれないですね。じゅんちゃんさんからのヒントで次回五嶋みどりを2曲入れてみます。

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