雪降る雲の彼方は、もう春だ積もった雪  金子みすづ

2020年01月09日

西脇順三郎 冬の日

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  「冬の日」    西脇順三郎  
        
                近代の寓話(1953年)             

   或る荒れはてた季節
   果てしない心の地平を
   さまよい歩いて
   さんざしの生垣をめぐらす村へ
   迷いこんだ
   乞食が犬を煮る焚火から
   紫の雲がたなびいている
   夏の終りに薔薇の歌を歌つた
   男が心の破滅を歎いている
   実をとるひよどりは語らない
   この村でラムプをつけて勉強するのだ
   「ミルトンのように勉強するんだ」と
   大学総長らしい天使がささやく
   だが梨のような花が藪に咲く頃まで
   猟人や釣人と将棋をさしてしまつた
   すべてを失つた今宵こそ
   ささげたい
   生垣をめぐり蝶とれる人のため
   迷って来る魚狗と人間のため
   はてしない女のため
   この冬の日のため
   高楼のような柄の長いコップに
   さんざしの実と涙を入れて

”乞食が犬を煮る焚火” この凄まじい表現は大いなる怒りと驚きである。夏には薔薇の歌を歌ったはずなのに、冬を迎えて心の痛みに激しく襲われる。

失楽園のミルトンのように勉強せよとの声が、耳元に聞こえてくる。だが、しかし、ミルトンの理想を越えてしまった自分の心の痛みは、もう耐え切れないのである。

梨の白い花が咲く初夏の日を想いつつ、長柄のコップのさんざしの実に、我が涙を流すのである。何としてでもこの残酷な冬の日を、今宵でお終いにしたいと激しく嘆いている。

西脇順三郎(1894 -1982年明治27〜昭和57年)詩人であり英文学者で、文学博士慶大教授。
非現実主義のシュルレアリスムの思想でも活躍し、ノーベル文学賞候補にも挙がっていた。荻原朔太郎の影響を受けている。


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きょうの音楽

シューベルト ピアノ三重奏 第2番 変ホ長調 作品100 D292

演奏 トリオ・ワンダラー(1987年に結成されたフランスのトリオ)
ジャンマルク・フィリップ=ヴァルジャベディアンリン(ヴァイオリン)
ラファエル・ピドゥ(チェロ)
ヴァンサン・コック(ピアノ)   

シューベルトらしい、寂寥感を漂わせたドラマチックなメロディが流れてくる。若きシューベルト、亡くなる前年(1827年30才)の作品。


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naturococo at 00:08│Comments(2)

この記事へのコメント

1. Posted by じゅんちゃん   2020年01月22日 11:55
haruka1さん、こんにちは。

お写真と詩がとても合っていて、不思議な心持ちになります。西脇先生の授業はどんなふうだったのだろうかと、そんな思いも湧いてきます。

そういえば、シューベルトのこの曲も、お写真に合っているように思えます。(^^♪
2. Posted by haruka1   2020年01月22日 13:39
じゅんちゃんさん、こんにちは。

早速のコメントありがとうございます。
体力低下が激しくて歩くのがいまいちです。2〜3年前の作品ですが、掲載するには撮影日をほぼ合わせています。
最後の2枚は明石海峡公園の温室に咲くサボテンです。布地の色合いがいいので、掲載しました。

西脇順三郎は学術活動も多く、作品数が少なくて中々目にかかれませんが、このようないい作品を見つけると嬉しいです。萩原朔太郎に近い雰囲気があります。

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